I read the news today, oh boy.
レッスンに行った下北沢でまちピアノを弾いていた。
下北沢のまちピアノは音もタッチも好みで、このピアノならいつもは胃をキリキリさせながら弾いているドビュッシーの“夢”も、ゆったり余裕を持って、弾く、と言うより、奏でる心持ちで弾ける。だから下北沢に行く日でまちピアノが弾ける晴れの日は、このピアノを弾くのを楽しみにしている。
スタンダードを弾き終えると、大きな拍手を頂いた。何人かの人がピアノの前のベンチに座っていて、見ると立って聴いてくれている人もいた。
皆さんの笑顔が嬉しい。
スタンダードや、ドビュッシーの“夢”を更に弾いていると、弾きたそうにしているカップルが来たので席を譲った。
ずっと聴いてくれていた80歳を超えると言う男性と話をしていたが、彼は1曲弾き終わった時点で、
“ビル・エヴァンスがお好きですか?”
と私の好みを言い当ててくれていた。
私は持っているCDコレクションの中でもビル・エヴァンスが最も枚数が多いし、仕事をしながらBGMでかけているのもビル・エヴァンスだ。
いちばん好きなピアニスト、それがビル・エヴァンス。最近とみにそうなった。
プライヴェートでのダメさ加減とかも好きな要因かも知れない笑
クスリをやっていたのは別に好きじゃないけど。
ともかく彼もジャズドラマーらしく、共通の知人・ミュージシャンの話で花が咲く。
世間は狭い。
いろいろ話したが、過分とも言えるような賛辞を頂いた。
“ビル・エヴァンスが好き、という気持ちが伝わってくる。”
“ビル・エヴァンスをここまで感じさせる人はなかなかいない。”
“柔らかい。”
“柔らかくてもふにゃふにゃだと駄目だが、芯がある。”
など、私が普段から意図して練習している部分のことを言ってくれる。
炎上するかも知れないが、ご老人はビル・エヴァンスがいちばん好きで、キース・ジャレットよりも好きだ、と言っていた。
比較の問題ではないのかも知れないが、私もキースよりビル・エヴァンスの方が好きで、つまり無人島に持って行くならビル・エヴァンスなのだ。
思い入れ、と言えばそれまで、、なのか?
ともかくその点においてもご老人と激しく一致してしまった。
そんな下北沢でのまちピアノでの一コマ。
場所を私の職場であるノア下北沢のスタジオに移して。
生徒が、
“買っちゃいました!”
と笑いながらピカピカの本を出す。表紙はビル・エヴァンス。本はビル・エヴァンスの有名な録音を採譜した楽譜だった。
“運命の扉を開けちゃいましたか!”
と笑う私。
生徒が弾いてきたのはずばり、“My Foolish Heart”と“Waltz For Debby”、名盤“Waltz For Debby”の1曲目と2曲目。
特に私からそんな本、買ってみては、とか言ってないのだが・・
楽しくレッスンする。
更に恵比寿に移動してノア恵比寿でややご無沙汰の生徒とレッスン。
改めてやりたいことを聴いていたら、ジャズなのだ、
“ビル・エヴァンスみたいに。”
と。
思わず笑う。
本日3人目。
全くの偶然。
強いて言えば類は友を呼ぶ。
ピアノ初心者の彼に少しでもビル・エヴァンスみたいな気分を味わってもらおうと、1曲ビル・エヴァンスがよく弾いていたスタンダードを紹介する。
必死で食らいつく彼。
下北沢の生徒にも、恵比寿の生徒にも、レッスンの記録の最後に、
“頑張れ!”
と書く。
相手はビル・エヴァンスだ。
とてつもなく高く、道程は遠いぞ。
だからマイペースで行こう。
ビル・エヴァンスを巡って今日一日で4人の人間が激しく交差する。
レッスンの仕事は人の人生を左右する仕事だし、人の人生に深く関わり、影響を与えるものだと思う。
と言うか、音楽というものが、すべからく人たちのつながりの中にあるもの、出会いの為せるものだと思う。
今日みたいな日はそんなことをまた思い起こさせる。
音楽、そしてピアノというものに出会った私の業が、時にこんなふうに報いてくれたのかな、とか。
楽しい1日だった。
渦中のビル・エヴァンスさん。↓