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先週末モトオカさんレッスン。
モヂュレーションとは2つの同じ音、と言うか同じなんだけど微妙にずれた音が同時に鳴ると、不思議にトゥウィンクルした綺麗な音が出ること。この効果を使ったもので代表的な産物は12弦ギターかな。或いはエレキ・ギターのエフェクトで“コーラス”というものもこの原理だ。 モトオカさんの家でのレッスンは前にも書いたかもしれないが、グランド・ピアノを私が弾いて、同じ部屋にあるアップライト・ピアノを師匠が弾いて、時には同時に弾いたりしながらレッスンしている。 いや、あったんだよね、と言うか起こったんだよね、モヂュレーション。 エリントンの“prelude to a kiss”のエンディングのところだった。二人で弾いていてG7thでテーマのメロディがG♯を指して最後のケーデンスになった時に、私とモトオカさんの間で同時にEメジャーのトライアドをアルペジオで重ねることが思いつかれ、2人の人間から2人のピアノを通して全く同時に同じ音の列が鳴って、部屋の中がモヂュレーションのかかった水滴の雫のような音で満たされたんだよね。 師匠とこんなCOINCIDENCEが起こるようになった、ってのも立派なものだ。って自画自賛か。でも中々感動的だよ。ちょっとした美しい奇跡、と言ってもいい位。だってお互い何の打ち合わせもしてないのに全く同じ音の連続を2人の人間が同時に思いついて同時に弾くなんて。第一、あのモヂュレーションのかかった音が鳴った時の部屋を満たした不思議な美しさに触れたら少しはブログのネタにしようとも思うさ。 何度かあったな、この日のレッスンではこの時以外にも。単発だけど所々にモヂュレーションという水晶の雫のように音が鳴る瞬間が。私も巧くなったものだ。と言うのは嘘だが、私がモトオカさんの考えてること、そしてそれ以上に私の考えていることをモトオカさんが非常によく理解してきてるんだろうな。ぶっちゃけ私のピアノが向上することにモトオカ師匠は私以上に熱心に思える。 ドロップ2のスケール練習は卒業。卒業の言葉は私が“やっていいですか?”と訊いた時のモトオカさんの“もういい。”という素っ気ない言葉。出来たことにはもう興味がない。出来たら次の出来るようになることを、そういう人なのですね、モトオカ師匠。 代わって始まったのはスケール練習とベースライン。 ベースラインは何も低音を埋めるためにやるのではなく、むしろ、リズムを感じる練習として。 実際私が“言っておきますけど私ベースラインを弾きながら右手でメロディもアドリブでとるなんて無理ですからね。(言っときますが私はバッハでもなんでもありません)”と言うと、“そりゃ無理だ。そうじゃなくて右手はコンプをウラに入れていく感じでベースラインを考えながら弾いて。”とのこと。ぶっちゃけモトオカさんはこのベースライン弾きながら右手でアドリブでメロディやってるけどね。 スケール練習は140~150位のテンポで三連のスケール上昇・下降をいくつかの種類のスケールで決まった指使いで。 これをもってモトオカ・レッスンのこれから暫くの強化課題はサウンド作りから、タイム、リズム面の強化へとシフトした感があります。サウンド作りはやってて楽しいし、ピアノならではのところも沢山あるし、一番興味がそそられるが、いざピアノという楽器を弾く時、このようなタイム・リズム感の練習は不可欠。また最近また演奏よりも基礎練の方がやっていて気持ちいいのでまあちょうどいい、と言ったところか。 そして新たな課題曲はバド・パウエルから“Celia”。“新しい曲、何がやりたい?”と訊かれた時、私は迷いなく“バドがやりたいです。”と言った。エリントンはかなりやった。モンクはモトオカさん自身確かにモンク好きだし、深い造詣がその演奏から感じられるが、モンクは私にとっては人から教わってやるイメージはあまりない。 だいたいこのレッスンでよく名前のでる人はバド・パウエル、バリー・ハリス、セロニアス・モンク、トミー・フラナガン、エリス・マルサリス、そして意外に、というかもしかしたら一番出てくるのはビル・エバンスだ。 もう一曲はビル・エバンスの“What kind of fool am I?”というセンチ極まりないビル・エバンスの愛奏曲。こちらはサウンド作りから。 かくしてこれから新しい2曲。 the end of a season. フランス料理レストランでのソロ・ピアノ演奏の仕事も辞めた。モトオカさんにも散々そのレストランの仕事における惨状を話していただけに“それは良かった。あんなのありえないよ。”と。これから練習に専念できる。本当に大切なものを大切なもののまま守りぬくことができる。一つの季節の終わりは新しい季節の始まり。 ▲
by kento_ogiwara
| 2010-04-19 23:05
| 音楽のこと
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Comments(3)
![]() しばらく潜ってました。 年度切り替えの憂鬱もあったし、ま、また多くのお別れを経験しなければいけなかったり、そしてそれもそれとしてとにかく疲れてました。 仕事もプライベートもピアノももうなんかやんなっちゃって、なんかいいことないかな~、なんて言ってなにもせず、一応桜を見とこう、と思ってカメラを持って名所のハンセン病隔離療養所が開放された後の多摩全生園へ。天気もイマイチだったし、場合によっては新秋津で昔よく食ったげんこつラーメン花月でキャベツトッピングのラーメン食って帰ってもいいくらいの気持ちでした。 ![]() 始め案の定天気はいまひとつで、曇りがち、私の気持ちと同じでどうにもならず、桜の花もそれ程キレイじゃなかった。 ところがしばらく居ると、不意に太陽が出始め、日が差し、曇っていた空も、明るく、青空へと変わっていったのであります。 これは素敵な偶然でした。 桜のピンクがかった白、それを映えさせるに絶対必要な空の青、一気に周りは美しくなり始め、オギワラくんのテンションも上がっていったのであります。 そしてこの与えられた情景が、それ自体でblessingなものだと思いました。 いいことないかな~、のいいこと、って例えばこういうことなのかな、とか。 ![]() 2年前も社会福祉士として働いていくにあたって、ここ全生園で花見をして自分の気持ちをこのブログに書きました。それから2年。だいぶ組織のことは、組織でやっていく技術は(下品な言い方をすれば処世術は)体得してきたように思うけれど、初心は陰り、価値も明文するには難しいくらいにぼやけてきました。なるべく考えないようにしていたし、全てを未整理の奥の方のケースに入れたまま、それを飲み込むこともできないくせに取り出して整理することもできませんでした。そこには疲労感だけが残っていました。長く働いていれば必ず出てくる問題だし、それにはもちろん対処していくことが必要だけれど、はっきり言えることだけ書くなら、最近思い出したことで一つのはっきり書けることがあります。 13年程前、オギワラくんはドイツのフライブルクという町にいまいた。オギワラくんはドイツにおける障害者に対する市民の意識と日本のそれとの違いは雲泥の開きがあると感じていました。一つにドイツにおいては障害者が地域において人の目に触れ、日本のような障害者を自宅に閉じ込めるだけかのような環境と違い、より当たり前に外に出て生活していることから、健常者の人間も障害者に触れる機会が多いのかな、及びだからより自然に、障害者を見ただけで何かしよう、ではなく、その人が困った時にだけすっと手が出るさり気なさが育まれるのかな、と思ったりしました。フライブルク大学で健常者とは全く外見を異にした盲目の男性がドアにゆっくり歩いていた時、そこにいたドイツ青年が何事もないかのようにただドアを開けて待っていました。その何事もない様子になによりも驚きました。近づいてくる人のあまりに健常者と異なる容姿は彼にとって全く何の意味も成さないかのようでした。 そういったかつてのドイツで見た人々、フライブルク大学で見た青年に、自分は少し近づけているのか、と思ったのです。それは理屈ではなく、長いこと障害者という、人の助けを必要としている人々と過ごしてきた時間の間で自然と体得されてきたものなのかな、と。そうだとしたら、当初の社会福祉士の臨床家、としての生き方を選んだことが、少しずつ実を結んでいるのかも知れません。そうだとしたらいいと思います。 ![]() 桜のいいところは、少なくとも今年の私にとっては、色々な別れと出会いのある季節に、どうしようもなく気持ちが落ちてしまう時に、調度タイミングよくキレイな色添えをしてくれることかな、と思います。 かつてインドネシアのマナドというところで建設会社の社員として駐在し、マナドの空港の滑走路を作ったりしていた日本人と話をしましたが、やはりここ(インドネシア)に住むというのは、大変、精神力がいる、とのことでした。というのもなにせ四季がない、と。季節の変わりがなかったらあたかも永遠に同じ時を生きているかのような気のすることだろう。 そこのところ行くと、日本には四季があり、この季節の巡りによって私たちは相当救われている面もあるのではないだろうか。憂鬱な春はそれだけでは憂鬱なままだが、せめて桜が咲いてくれることでその時期を春として、美しい色添えをその季節にしてくれる、そんな風に思いました。 そして全生園で日が差し始め、空が青く変わり、桜の花びらが輝き始めたとき、仕事やプライベート、ピアノなどで忙殺され、普段案外省みることができるようでできない、この世界が持っているもともとの美しさ、祝福に触れることができたかのようで、少し安心しました。 今年度も皆様にとっていい年度であるように。 ![]() ▲
by kento_ogiwara
| 2010-04-04 14:23
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